いきなりですが、クイズです。
人でにぎわう市場で、「天国に行ける人」を探します。ふしぎな力をもつ預言者が指さしたのは、だれだったでしょう?
- A:えらい学者の先生
- B:お金をたくさん寄付するお金持ち
- C:いつもまじめにお祈りしている人
- D:それ以外のだれか
これは、1,500年ほど前にまとめられたユダヤの知恵の本「タルムード」に書かれているお話です。エリヤが「この人だ」と指さす場面が2回あります。そのたびに「予想タイム」があるので、お子さんと一緒に当ててみてください。
登場人物は2人
- ベロカ先生:よく市場に出かけていた、えらい学者の先生(ラビ)
- エリヤ:大昔の預言者(神さまの言葉を伝える人)。ユダヤのお話では、ときどき人の姿であらわれて、こっそり大切なことを教えてくれる。昔話に出てくる「旅の仙人」のような存在
ちなみにタルムードとは、ユダヤの人々が、学者たちの話し合いやお話を何百年もかけて書きためた、とても分厚い知恵の本のことです。
第1幕 「この市場に、天国に行ける人はいますか?」
ある日、市場でエリヤに会ったベロカ先生は、こうたずねました。
「この市場の中に、天国に行ける人はいますか?」
商人、買い物客、職人。市場には、まじめそうな人も、立派な身なりの人もたくさんいます。エリヤはぐるりと見まわして、答えました。
「……いないね」
🤔 えっ、なんで? こんなにたくさん人がいるのに、ひとりも? そう思ったそのとき、ひとりの男が通りかかりました。
第2幕 黒い靴の男
その男は、ユダヤの人なら普通ははかない黒い靴をはいていました。ユダヤの男性が服のすみにつけるはずの房(ふさ)もついていません。見るからに「決まりを守っていない人」です。
ところが、エリヤは男を指さして言いました。
「あの人は、天国に行けるよ」
⏸ 予想タイム① 決まりを守っていないこの男。いったい何をしている人だと思いますか?
- ア:じつは、身分をかくした王さま
- イ:牢屋(ろうや)の番人
- ウ:町いちばんのお医者さん
▶ 予想したら、ここをタップして答えを見る
答えは、イの「牢屋の番人」。先生が追いかけて仕事をたずねると、男はこう答えました。
「牢屋に入れられた人たちが、ひどい目にあわないように見張っています。ユダヤ人らしくない格好をしているのは、役人たちにユダヤ人だと気づかれないため。そうすれば、ユダヤの人々を苦しめる命令が出そうなとき、こっそり先生たちに知らせることができるのです」
あやしい格好には、ちゃんと理由がありました。だれにも知られずに、人を守り続けていた人だったのです。
第3幕 通りかかった2人組
しばらくして、今度は2人組の男が通りかかりました。エリヤはまた指さしました。
「あの2人も、天国に行けるよ」
⏸ 予想タイム② えらい先生でさえ「いないね」と言われた市場で、選ばれた2人。何をしている人たちだと思いますか?
- ア:貧しい人に食べ物を配るパン屋さん
- イ:一日じゅうお祈りをしている兄弟
- ウ:お笑い芸人
▶ 予想したら、ここをタップして答えを見る
答えは、まさかのウ「お笑い芸人」。先生が仕事をたずねると、2人はこう答えました。
「元気のない人を見つけたら、笑わせて元気にします。そして、ケンカをしている人を見つけたら、なんとかして仲直りさせるんです」
2人は、ただふざけていたのではありません。落ちこんだ人を笑顔にして、ケンカした人どうしをつないでいたのです。ユダヤの教えでは、人と人のあいだに平和をつくることが、とても大切にされています。
最後のなぞ えらい先生は、なんで選ばれなかった?
じつは、お話にはその理由が書かれていません。でも、選ばれた人たちを並べると、ヒントが見えてきます。
| 見た目・肩書き | 本当にしていたこと |
|---|---|
| 決まりを守っていない、あやしい男 | 見えないところで、人を守っていた |
| ふざけているだけに見える芸人 | 悲しい人を笑わせ、ケンカを仲直りさせていた |
選ばれた人に共通するのは、「肩書き」ではなく「まわりの人に何をしているか」でした。「ちゃんとしていない」と思われた人がいちばん人を守っていて、「ふざけている」と思われた人がいちばん人を幸せにしていた。この大逆転こそ、このお話のいちばんの面白さです。
冒頭のクイズの答えは、D「それ以外のだれか」でした。当たりましたか?
親子で考えたい、もっと「なんで?」
答えはひとつではありません。子どもの考えを、まず聞いてみてください。
- なんで、人を笑わせることが「いいこと」なんだろう?
- なんで、ケンカを仲直りさせるのはむずかしいんだろう?(大人でも、なかなかできないよね)
- 黒い靴の男を見て、最初はどう思った? 答えを知って、なんで気持ちが変わった?
- なんで、男は「いいこと」をしているのに、かくしていたんだろう?
- クラスに、お話の芸人みたいな子はいる? きみは、どんなふうにみんなを元気にできる?
「ふざけてばかり」の子の見え方が変わる
授業中にみんなを笑わせる子、家でもふざけてばかりの子。「ちゃんとして!」と言いたくなる日もありますよね。時と場所をわきまえることは、もちろん大切です。
でもこのお話を読むと、その子の中の「みんなに笑ってほしい」という気持ちは、それ自体が立派な長所だと気づかされます。叱るときも「ふざけないで」ではなく、「みんなを笑わせる力、すごいね。今は話を聞く時間だから、休み時間に使おう」と、力そのものは認める言い方ができます。
きょうだいゲンカに「やめなよ」と入っていける子は、お話の芸人と同じ「仲直り屋さん」です。うまくいかなくても、「仲直りさせようとしたんだね」と言葉にしてあげてください。親の入り方はきょうだいゲンカの仲裁はしないほうがいい?で解説しています。
夕飯で遊べる「エリヤに選ばれる人ゲーム」
- 家族それぞれ、「今日だれかを笑わせたこと」「仲直りさせたこと」「こっそり助けたこと」を1つ発表する
- エリヤ役の人が「それはエリヤに選ばれる!」と認定する
目立たないけれど人を幸せにする行動に、家族みんなで目を向けるきっかけになります。
まとめ
- 市場で「天国に行ける人」として選ばれたのは、えらい先生ではなく、あやしい格好の牢屋の番人と、2人のお笑い芸人
- 番人は見えないところで人を守り、芸人は人を笑わせ、ケンカを仲直りさせていた
- 人の値打ちは、見た目や肩書きではなく「まわりの人に何をしているか」で決まる
毎日、家族を笑わせようとしているお母さん、お父さんも、きっとエリヤに選ばれる側の人です。
タルムードの面白い小話は、ほかにも円を描いたホニ、ヒレルを怒らせたら400ズーズ、煙突掃除の問答があります。お金や肩書きではない豊かさについては、ほんとうに豊かな人とは?もあわせてどうぞ。
※出典:バビロニア・タルムード「タアニート篇」22a。「天国」はもとの言葉では「来たるべき世界(来世)」のこと。訳し方には複数の説があり、本記事では子ども向けにやさしく言いかえ、一部を省略しています。予想タイムの選択肢(ア〜ウ)は、この記事で用意したものです。

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