「昨日まで仲良しだったのに、急に◯◯ちゃんのグループと対立している」
——小学校中学年ごろになると、こうした話が急に増えます。
実は1954年、アメリカで「ふつうの良い子たち22人を、たった数日で本気の敵同士にしてしまった」実験が行われています。
しかも研究者たちは、そのあと仲直りまでさせることに成功しました。
その仲直りの方法が、実に意外だったのです。
「話し合わせる」でも「一緒に遊ばせる」でもありませんでした。
この記事では、その実験の中身と、家庭や学校の人間関係に今日から使えるヒントを解説します。
ロバース洞窟実験とは?ひとことで言うと
ロバース洞窟実験とは、1954年にアメリカの社会心理学者ムザファー・シェリフたちが、サマーキャンプを装って行った実験のことです。
名前は、行われた場所(オクラホマ州の「ロバーズケーブ(泥棒洞窟)州立公園」)に由来します。
調べたかったのは、たったひとつ。「グループ同士の争いは、どうやって生まれ、どうやったら終わるのか」です。
集められたのは、11〜12歳の男の子22人。全員がふつうの家庭で育った、問題のない子どもたちでした。
しかも参加した子どもたちは、自分が実験の対象だとは知りません(今の基準では倫理的に問題があるとされ、同じ実験を再現することはできません)。
第1段階:たった1週間で「仲間」ができる
22人はまず、お互いの存在を知らないまま2つのグループに分けられ、離れた場所でキャンプ生活を始めます。
一緒にごはんを作り、川で泳ぎ、テントを張る。
それだけで1週間もすると、それぞれのグループにはリーダーが生まれ、あだ名が決まり、グループ名まで自然にできました。
「イーグルス(ワシ)」と「ラトラーズ(ガラガラヘビ)」です。旗まで作りました。
この時点では、まだ相手グループの存在すら知りません。
第2段階:「勝負」をさせた瞬間、豹変する
ここで研究者は、2つのグループを引き合わせ、賞品をかけた対抗戦を始めます。
野球、綱引き、宝探し。勝ったチームだけがトロフィーとナイフをもらえるルールです。
すると、驚くほど短期間でこうなりました。
- 相手グループに悪口やあだ名をつけて呼ぶ
- 相手の旗を奪って燃やす
- 夜中に相手の小屋を襲撃して荒らす
- 「自分たちのグループは正しい、あいつらはズルい」と本気で信じる
- 自分のグループ内では、仲間意識がさらに強くなる
くり返しますが、彼らはふつうの良い子たちです。
数日前まで、相手の存在すら知りませんでした。特別に乱暴な子を集めたわけでも、けんかの原因があったわけでもありません。
「グループに分ける」「勝ち負けを競わせる」——この2つが揃うだけで、対立は生まれてしまう。これが実験が示した、少し怖い事実です。
第3段階:仲直りの方法を探して、2回失敗する
ここからが本題です。研究者たちは、この対立を解消しようと試みます。
失敗①「仲良く一緒に過ごさせる」
まず、同じ食堂で食事をさせ、一緒に映画を見せ、花火を見せました。
接触を増やせば仲良くなるはず——という発想です。
結果は逆効果でした。顔を合わせるたびに、悪口の言い合いや食べ物の投げ合いに発展。
一緒にいる時間が増えるほど、ぶつかる回数が増えただけだったのです。
失敗②「話し合わせる・仲裁する」
大人が間に入って諭しても、効果は続きませんでした。その場は収まっても、離れればまた対立に戻ってしまいます。
成功したのは「一緒に困らせる」だった
最後に研究者が試したのが、「両方のグループが力を合わせないと解決できない問題」を用意するという方法でした。
- 水が止まった——キャンプ場の給水設備が故障(という設定に)。全員が飲み水に困る。
- 原因を探すには、大人数で長い水道管をたどるしかない
- 食料を運ぶトラックが動かない——みんなの食事が届かない。動かすには、全員でロープを引くしかない(しかも、その綱引き用ロープは、対抗戦で使ったものでした)
- 映画を借りるお金が足りない——両グループがお金を出し合わないと、誰も映画を見られない
1回や2回では変わりませんでした。しかし、こうした「みんなが困る問題」をいくつも重ねていくうちに、少年たちの態度は変わっていきます。
最終的には、相手グループの子と自分のおやつを分け合い、帰りのバスも一緒に乗ることを自分たちから希望するまでになりました。
この「両方が協力しないと達成できない共通の目標」を、心理学では上位目標(superordinate goal)と呼びます。
実験からわかる3つのこと
| わかったこと | 意味 |
|---|---|
| 対立は「性格」ではなく「状況」から生まれる | 悪い子だから対立するのではない。分けて競わせれば誰でもこうなる |
| ただ一緒にいるだけでは仲直りしない | 接触を増やすと、かえって衝突が増えることもある |
| 共通の目標があると、境界線は消える | 「敵」ではなく「同じ問題を抱えた仲間」になる |
家庭で使える:きょうだいゲンカにも効く
この実験の考え方は、そのまま家庭に応用できます。
① きょうだいを「競わせない」
「どっちが早く着替えられるか競争!」は、短期的には動きますが、実験の第2段階と同じ構造を家の中に作ってしまいます。
使うなら、「2人合わせて何分で終わるか」に置き換える——これだけで競争が共同作業に変わります。
② ケンカ中こそ「一緒にやる用事」を渡す
にらみ合っているときに「仲直りしなさい」と言っても、実験の失敗①・②と同じです。
それより「2人で協力しないと終わらない用事」を渡すほうが早い。
大きな荷物を2人で運ぶ、一緒に夕飯を作る、犬の散歩に2人で行く——目的が外側にあると、対立は薄れます。
③ 学校のグループ対立には「敵」ではなく「共通の相手」を
小学校中学年は、仲間意識が一気に強まるギャングエイジと呼ばれる時期です。
グループができるのは発達として自然なこと。問題は、そこに「勝ち負け」が持ち込まれたときです。
子どもがグループ間のトラブルを話してきたら、「どっちが悪いか」ではなく「2人(2グループ)が一緒に困っていることは何か」を一緒に探してみてください。
運動会や係活動など、共同でやる行事が対立をやわらげるのには、こういう理屈があります。
よくある質問
Q. この実験は今も正しいとされていますか?
「共通の目標が対立をやわらげる」という結論は、その後の研究でも支持されており、教育や組織運営で広く使われています。
一方で近年は、研究者が対立をあおる方向に介入していたのではないかという批判や、子どもに同意を得ていない点への倫理的な指摘もあります。
「自然にこうなる」ではなく「条件を整えるとこうなりうる」と読むのが適切です。
Q. いじめにも同じ考え方が使えますか?
グループ同士の対立と、特定の子を狙ういじめは別問題です。
いじめが疑われる場合は、共通の目標を用意する前に、まず学校や相談窓口に相談してください。
子どもが学校に行きたがらないときの対応はこちらの記事にまとめています。
Q. 他の有名な実験も知りたいです
マシュマロ実験、ピグマリオン効果、知識の呪い(タッピング実験)、ユニバース25も紹介しています。
まとめ:仲直りの近道は「一緒に困ること」
- 1954年のロバース洞窟実験では、ふつうの少年22人が数日で敵対した
- きっかけは性格ではなく、グループ分け+勝ち負けの競争という状況
- 一緒に過ごさせても、話し合わせても仲直りしなかった
- 効いたのは両方が協力しないと解決できない問題(上位目標)
- 家庭では「競争」を「合計タイム」に、ケンカ中は「2人でやる用事」に
子ども同士がぶつかったとき、つい「どっちが悪いの」と裁きたくなります。でも70年前の実験が教えてくれるのは、裁くより、同じ方向を向かせるほうが早いということ。同じ相手をにらみ合うのをやめて、同じ荷物を一緒に持つ——それだけで、線は消えていくのです。
コメント